「上を向いて歩こう」
T0P/ MUSIC ESSAY/KINKYO
〜手法がシンプルなほど、音楽は人の心を動かす〜
坂本九 1961
GUESTBOOK/BACKNUMBERS
今回は一気に時代がさかのぼった。1960年代初頭の曲を取り上げてみようと思う。とはいえ、物心ついている人なら、この唄を知らない人はいないだろう。筆者は1975年生まれだが、この唄はフルコーラス歌える。この曲は、皇太子(現天皇)御成婚以後、テレビが爆発的に普及しはじめた当時、一世を風靡していたNHKのバラエティ・ショー「夢で逢いましょう」で生まれた曲である。作詞は永六輔、作曲は中村八大、唄は坂本九という、後に「六・八・九」と称された名コンビの一作目である。
なぜ、これほどまでにこの曲は世に残っているのだろう。もちろん、今のヒット曲と同様に、この曲にも衝撃性はあった。後にも先にも、日本の唄でビルボードで1位を獲得したのはこの曲ただ1曲なのである。しかし、それはどうでもいい、この曲がこんなにも世に残っているのは、この曲の残したそんな記録によるものではないと思うのだ。それよりも、この唄が優秀なキャッチコピーであるが故のことではないかと思うのである。
「上を向いて歩こう 涙がこぼれないように」
この一行目の歌詞が、全てである。これは、シンプルで、老若男女誰にでも分かる、極めて優秀なキャッチコピーである。これだけシンプルでわかりやすければ、長い人生、一度はこう口ずさんでみたくなるときが訪れるものである。たくさんの人と等身大の、極めてシンプルなコピー、それが、この唄が時代を越えて人の心を引きつけてやまない所以だと思う。
ここ10年くらい、日本のあちこちで流れている曲には、こういった「キャッチコピーとしての優秀さ」が無いと思う。消費されるためだけの音楽が増える中、僕らの子供に、あるいはそのまた子供に、唄って聴かせてあげられるような曲は、これから果たして出てくるのだろうか。
〜付記〜
この曲が数年前、アメリカのコーラスグループによってカヴァーされ、またもやビルボードのトップにランクされたのは記憶に新しいが、それ以前に、スターダスト・レビューがシングルとしてこの曲をカヴァーしている。これもなかなかいい。