「あの娘」 T0P/ MUSIC ESSAY/KINKYO
〜恋に破れた「一時」〜
中島みゆき 1983
GUESTBOOK/BACKNUMBERS
「男運のない女」「女運のない男」というのが、いる。そういう輩は、中島みゆきの唄の格好の餌食となる。中島みゆきのファンの女性の中には、中島みゆきの唄の中の「女」と自分を重ね合わせて、コトあるごとに歌を聴きながら泣くことが趣味になってしまっている人さえいるというのを聞いたことがある。恋愛にも陰と陽があり、陽の方ばかりがクローズアップされがちな中で、中島みゆきはその「陰」の部分の数少ない旗手の一人である。
この、「あの娘」という唄は、そんな中島みゆきの「悪女」大ヒット後の全盛期にリリースされたものである。当時は、研ナオコをはじめとする、女性シンガーが、中島みゆきに曲を提供され、それが大ヒットするという、プロデューサー的な形でも彼女が注目されていた頃だ。余談だが、中島みゆきは70年代に「わかれうた」、80年代に前出の「悪女」、90年代には安達佑実主演のドラマ「家なき子」のテーマソング「空と君のあいだに」でそれぞれヒットチャート1位を獲得している。3つの年代においてシングル1位のヒットを記録しているのは、現存のミュージシャンでは、彼女一人である。
さて、この「あの娘」という唄、恋愛のなかなかうまくいかない女のぼやきともいえる、中島みゆきお得意のテーマだが、それを「名前」というなかなか面白い切り口で描いている。「〜ゆうこ・あいこ・きょう・けいこ・まちこ・かずみ・ひろこ・まゆみ〜」という名前の羅列がサビの中にでてくるのである。そしてこの唄の中の女は「あの子の名前を真似たなら、わたしを愛してくれますか」と来るのである。恐るべき情念。恋愛というものは、人をこうまでにしてしまうのか、筆者は、この曲を初めて聴いた中学1年の頃、恐ろしさすら感じたものである。
中島みゆきの唄には「うらみます」などなど、この歌を初めて聴いた筆者のような”おそろしい”衝撃を与える唄が多い。それが理由か、時折、彼女の唄をバケモノ扱いする失礼な輩までいるのである。しかし、「あの娘」の衝撃以後、筆者も人並みに恋愛をしていく中で、中島みゆきの唄の中に描かれている「一時」に極めて共感できる、そんな瞬間・時期があるのである。男である筆者ですら、である。べつに、筆者は振られた女の部屋のドアに血で指文字を書く、なんということはしたことはないが。そういう「一時」を描かせたら中島みゆきの右にでるものはいない。デビューしてから現在まで、ライバルはいないと言っていい。無敵である。恋をし、それに破れて泣く人がいる限り、彼女の唄は輝き続ける。それは、バケモノなんかではけして無い。彼女のアーティストパワーがこれからも持続され、そして来るべき2000年代にナンバーワン・ヒットを記録することを、筆者は楽しみにしている。
ぶんせきは
KENTARO