「花の首飾り」 (6/12)
井上陽水/ザ・タイガース 2001/1968
T0P/KINKYO
/ BACKNUMBERS
/
今から15年以上前に、ジュリーに「背中まで45分」というシングルを提供した井上陽水が、今度はタイガースの代表曲をカヴァーしている。今年、前作「コーヒー・ルンバ」とともに、カヴァーのリリースで幕を開けた陽水は、その集大成とも言えるアルバム「UNITED COVER」を先日リリースし、同時期にベスト「LOOKING BACK2」をリリースし1位をさらっていった小田和正とともに、偉大なるオッサンアーティストとしてマスメディアに話題を振り撒いている。
「コーヒー・ルンバ」がシングルとしてリリースされる少し前に、陽水がカヴァー曲を中心に唄い、陽水をリスペクトするアーティストが陽水の曲をカヴァーするというTV番組を観た。そこで「コーヒー〜」のほか「旅人よ」などカヴァー曲を唄う陽水を観ながら、僕は昔手にとり、今も愛聴盤になっているあるアルバムのことを思い出した。「IMITATION GOLD」---あがた森魚が87年にリリースしたアルバムで、あがたが自分の歌唱スタイルを貫きつつ、「星のフラメンコ」「恋のバカンス」「禁区」「夜明けのうた」「サイレント・イヴ」など新旧(当時)のヒット曲を唄い倒すというコンセプトのアルバムである。アレンジは細野晴臣・鈴木慶一など豪華な面々。あがたは当時、ライヴでもこの他に「風立ちぬ(松田聖子)」などを唄うなど、カヴァー曲を唄うことでの表現、そして自身のなかでは単なる「唄うことのよろこび」を感じることに非常に重きを置いていたし、それは「IMITATION〜」のライナーノーツにもあらわれていた。陽水の「コーヒー・ルンバ」を唄う姿を観て、あがたのそのアルバムのコンセプトのことを思い出した。メロディーや詞をクリエイトする姿から、唄うことへのコンセプトの移動。しかし一連のリリースのように、ここまで本格的(?)にしてくることを知り、意外でもあり、もちろん楽しみな気持ちも大きくなった。
しかしながら、この曲といい、「UNITED COVER」の他の曲といい、結論から言うとどうということはない。いくら企画色が強く、新録であったとしても、ベスト盤にプレミアムがついた形となった小田のアルバムと大差ない。そこに新しい陽水の姿とか、音楽的な進展は、少なくともみられない。ああ、陽水が唄っているのね、位にしか印象がない。カヴァーされている一つ一つの曲をリアルタイムで知る人々には、しかしノスタルジイを提供するだろう。しかし、それだけなのか。こうしたリリースをすることの意義、それは結果論になるのかわからないが、もっとビジネスに近い部分にあると思う。
いくら音楽市場が成熟しつつあるとはいえ、まだまだそれは若年層が牛耳る世界であることは事実だ。ベテランのアーティストたちは、段々セールスは先細りになる。日本ではそういう事態は顕在化していないが、いずれリリースすらおぼつかなくなってくることも考えられる。特に、その昔「ニューミュージック」と称されたアーティストたちのセールスは、一部の人々を除いて軒並み落ち込み気味である。知名度や動員、そして実際の仕事の量を維持しようと思うのか、実際全盛時代とはまったく違ったスタンスでアーティスト活動をしているというケースも多い。それは本人が年をとって変わったのか、本人の意図と反するところで変わらざるを得なくなったのか、それはわれわれ外野からは推測しかできないが。
40台後半以降のそれらのアーティスト群の中で、プレミアムな存在になることが、アーティストとしての自尊心を保ちつつ、セールスもある程度挙げていくことに不可欠な要件になってくる。奥田民生とのセッションから始まって、陽水のこのアヴァンギャルドな活動は、そのプレミアム感を創生し、保つために非常に有効に働いている。これを観て、古のファンは今も一線で活躍する彼の姿に喜びと回帰こそあれ、けして去り行く時代の寂しさなど感じる必要はない。ジリ貧に陥って、NHKに媚を売ったりやたらとチャリティーや慈善活動に手を出してしまうよりは、若い世代のフリークも生まれやすく、プレミアムアーティストとしての寿命も延びる。(そういう意味でも紅白歌合戦というのがもう死に体なのは明らかである)中島みゆきや小田和正、佐野元春や浜田省吾は、年齢や環境や年月に流されず、かといって変化に億劫になることもせず、クオリティの高い作品を作ってきた、陽水とは違った形で、プレミアム感を維持することに成功している。
たしかにこの唄や、「UNITED COVER」は他人の唄を唄っている陽水が収録されている、それだけだ。しかし、このリリース、このヒットは「井上陽水」というブランド・イメージの維持のために、想像よりはるかに大きく寄与することになるのではないか、と思う。
ぶんせきは
KENTARO